Foomii(フーミー)

稲葉義泰のミリタリーレポート ─軍事と法から世界を見る─

稲葉義泰(国際法・防衛法制研究家/軍事ライター)

稲葉義泰

フーシ派に対する攻撃の整理(前編)
無料記事

●フーシ派に対する攻撃の整理(前編)●


 2024年1月に入り、中東情勢が大きく動きました。地中海とインド洋とを結ぶ紅海を航行する船舶を攻撃しているイエメンの反政府勢力「フーシ派」に対して、アメリカおよびイギリスが、それまでのミサイル迎撃一辺倒の対応策から一転、航空機や巡航ミサイルなどによる攻撃作戦を実施しました。今回は、その攻撃の法的整理についてみていこうと思います。


 まず、アメリカおよびイギリス両国がともに法的根拠として言及しているのが、自衛権(right of self-defense)の行使です。たとえば、イギリス政府は攻撃実施当日の2024年1月12日、「イギリス政府の法的立場:2024年1月12日のイエメンにおけるフーシ派の施設を対象とした軍事行動の合法性について」と題する文書を発表し、その中で、今回の攻撃は1月9日に発生したイギリス海軍の軍艦「ダイアモンド」に対する、フーシ派による攻撃を受けての自衛権の行使であると明言しています。また、この自衛権について定めている国連憲章51条に基づき、イギリスは国連安全保障理事会に対して、自衛権を行使した旨の報告を行っています。


 一方、アメリカも、やや間接的にではありますが、このときの攻撃は自衛権の行使である旨の説明を行っています。1月11日に公表されたオースティン国防長官の声明には、次のように記されています。


「本日の攻撃は、フーシ派の無人航空機、弾道ミサイル、巡航ミサイル、沿岸レーダーおよび対空監視能力に関連する施設を標的とした。アメリカは自衛権を保持し、必要であれば、アメリカ軍を守るためにさらなる行動をとる。(Today's strikes targeted sites associated with the Houthis' unmanned aerial vehicle, ballistic and cruise missile, and coastal radar and air surveillance capabilities. The United States maintains its right to self-defense and, if necessary, we will take follow-on actions to protect U.S. forces.)」


 アメリカおよびイギリスは、いずれも紅海における民間船舶の航行の安全について言及してはいますが、攻撃を実施した直接に引き金は、いずれも自国軍の軍艦に対する攻撃に求められています。というのも、民間船舶に対する攻撃の場合、それはあくまでその船が掲げる旗の国(旗国)に対する攻撃となるため、他国による対応となると、旗国からの要請に基づく集団的自衛権の行使が必要となります。しかし、今回そうした要請は出されていませんので、自国の軍艦に対する攻撃への対応という個別的自衛権の行使として、反撃を実施したという形です。


 この個別的自衛権の行使に際しては、①攻撃への有効な対応が自衛権の行使以外にないことを求める「必要性(necessity)」と、②攻撃に対処するという目的と、そのための軍事行動により相手に与えた害との間の釣り合いを求める「均衡性(proportionate)」という、2つの要件を満たす必要があります。現状では、フーシ派による攻撃が継続する中、安保理決議(2722号)などによる外交的な解決策が功をなさなかったことなどを勘案すると、①の必要性は満たされていると考えられます。また、攻撃の対象がミサイル発射装置やレーダーなどに限定されているなど、②の均衡性の観点からも、問題はないように思われます。





本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛てにお送りください。


配信記事は、マイページから閲覧、再送することができます。

マイページ:https://foomii.com/mypage/


【ディスクレーマー】

ウェブマガジンは法律上の著作物であり、著作権法によって保護されています。

本著作物を無断で使用すること(複写、複製、転載、再販売など)は法律上禁じられています。


■ サービスの利用方法や購読料の請求に関するお問い合わせはこちら

https://letter.foomii.com/forms/contact/

■ よくあるご質問(ヘルプ)

https://foomii.com/information/help

■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/



今月発行済みのマガジン

ここ半年のバックナンバー

2024年のバックナンバー

2023年のバックナンバー

2022年のバックナンバー

2021年のバックナンバー

このマガジンを読んでいる人はこんな本をチェックしています

月途中からのご利用について

月途中からサービス利用を開始された場合も、その月に配信されたウェブマガジンのすべての記事を読むことができます。2025年1月19日に利用を開始した場合、2025年1月1日~19日に配信されたウェブマガジンが届きます。

利用開始月(今月/来月)について

利用開始月を選択することができます。「今月」を選択した場合、月の途中でもすぐに利用を開始することができます。「来月」を選択した場合、2025年2月1日から利用を開始することができます。

お支払方法

クレジットカード、銀行振込、コンビニ決済、d払い、auかんたん決済、ソフトバンクまとめて支払いをご利用いただけます。

クレジットカードでの購読の場合、次のカードブランドが利用できます。

VISA Master JCB AMEX

キャリア決済での購読の場合、次のサービスが利用できます。

docomo au softbank

銀行振込での購読の場合、振込先(弊社口座)は以下の銀行になります。

ゆうちょ銀行 楽天銀行

解約について

クレジットカード決済によるご利用の場合、解約申請をされるまで、継続してサービスをご利用いただくことができます。ご利用は月単位となり、解約申請をした月の末日にて解約となります。解約申請は、マイページからお申し込みください。

銀行振込、コンビニ決済等の前払いによるご利用の場合、お申し込みいただいた利用期間の最終日をもって解約となります。利用期間を延長することにより、継続してサービスを利用することができます。

購読する