●日本政府による旗国主義の理解(前編)●
イエメンの反政府勢力フーシ派によるイスラエル関係船舶への攻撃によって、紅海における民間船舶の航行に支障が生じる事態となっていることは、日本でも連日話題になっています。アメリカが主導する多国籍の商船保護作戦である「Operation Prosperity Guardian(繁栄の守護者作戦)」も開始されていますが、現状では日本がこれに参加するとの情報はありません。
日本がこうした活動に参加できない理由はいくつか考えられますが、今回は国際法の観点から、「旗国主義」という言葉をキーワードとして解説していきたいと思います。
●そもそも「旗国主義」とは
そもそも旗国主義とは、公海上の船舶は、その掲げる旗の国(旗国)の排他的な管轄権に服するという、国際法上の原則です。これについては、国連海洋法条約92条1項に規定が置かれています。
92条1項
「船舶は、一の国のみの旗を掲げて航行するものとし、国際条約又はこの条約に明文の規定がある特別の場合を除くほか、公海においてその国の排他的管轄権に服する。」
この旗国とは、人間でいうところの国籍にあたる船籍を示すもので、当該船舶と旗国との間には真正な関係の存在が求められます(同91条1項)。また、いずれの国も、自国を旗国とする船舶に対して「行政上、技術上及び社会上の事項について有効に管轄権を行使し及び有効に規制を行う」ことを義務付けられているほか、船舶の安全を確保するために必要な各種の措置をとることとされています(同94条)。
この規定からもうかがい知れる通り、旗国主義とは、どの国の管轄権も及ばない公海上においてその秩序を維持するために、自国を旗国とする船舶に対して排他的な管轄権に基づく一定の管理を行うことにその意義があるといえます。言い換えれば、旗国主義においては、自国を旗国とする船舶が公海上で引き起こした問題等に関して、これを自国の法令に則って処罰することが重要であり、その限りにおいては、旗国主義において重要なのは加害船舶の旗国ということが言えます。
ところが、この旗国主義に関して、日本政府は近年こうした整理とは異なる見解を示している。とくに、アメリカとイランとの間の緊張関係悪化を背景とする、ホルムズ海峡での商船襲撃が問題となった2019年末、海上自衛隊の護衛艦および哨戒機による商船保護活動への参加が国会において議論された際には、旗国主義に関する多くの国会答弁が示されることになりました。(後編に続く)
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稲葉義泰(国際法・防衛法制研究家/軍事ライター)