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稲葉義泰のミリタリーレポート ─軍事と法から世界を見る─

稲葉義泰(国際法・防衛法制研究家/軍事ライター)

稲葉義泰

海賊対処行動(前編)
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●日本にとってのソマリア沖海賊問題

 自衛隊は、アフリカのソマリアとアラビア半島のイエメンとの間に広がるアデン湾で発生する海賊行為に対処するべく、2009年からアフリカのジブチ共和国に護衛艦と対潜哨戒機を派遣し、今この瞬間も海賊行為の発生に目を光らせています。しかし、なぜ日本から約12,000kmも離れたアデン湾で発生している海賊行為に自衛隊が対処しなければならないのでしょうか。


 まず考えなければならないのは、日本にとっての海上交通路の重要性です。日本は、石油や天然ガスといった天然資源の輸入、さらには海外との貿易などの大半をタンカーや貨物船による海上輸送に頼っています。つまり、日本経済にとってこうした船舶が通過する海上交通路の安全は不可欠な要素なのです。


 そして、その海上交通路の要ともいえるのが現在海上自衛隊が活動しているアデン湾です。アデン湾は紅海とインド洋の間に位置し、その先には地中海へと通じるスエズ運河があります。そして、このアデン湾は、約1600隻の日本に関係する船舶(日本籍船や日本の船会社が運航する外国籍船舶など)を含め、毎年延べ数万隻もの船舶が通過しています。つまり、アデン湾はヨーロッパとアジアを結ぶ海上交通路の要衝なのです。


 そのアデン湾で海賊行為が横行し、日本に向かって、あるいは日本から海外に向けて航行する船舶が襲撃されたりすれば、日本の経済にとって深刻な問題が発生することは想像に難くありません。そこで、アデン湾に自衛隊が展開し、海賊に目を光らせることは日本にとって非常に意義深いことであると同時に、アデン湾を通過する船舶によりもたらされる国際社会全体の利益を保護することにもなるため、日本による重要な国際貢献と評価することもできます。


●ソマリア沖海賊の現状

 ソマリア沖やその周辺海域で発生した海賊行為の件数は2007年から徐々に増加し、2008年には111件、自衛隊の派遣が開始された2009年には218件に達しました。


 しかし、現在ではこの状況は大きく変化してきています。2011年に海賊の件数は237件でピークを迎え、その後は一転して減少傾向に転じました。まず、翌年の2012年には75件に激減し、さらに2015年にはついに0件となりました。最近でも、2018年の3件を最後に、2019年と2020年は海賊行為が1件も報告されていないのです。


 この背景にはさまざまな要因が考えられますが、ソマリア沖の海賊対処は日本のみならずアメリカやヨーロッパ諸国など、多国間の連携によって実施されてきました。この各国の何年にもわたる努力が実を結び、海賊の件数が減少したと考えられます。


 しかし、海賊行為が発生するのはなにもソマリア沖に限られるわけではありません。実際に、ソマリア沖で海賊行為が1件も報告されなかった2019年と2020年には、世界ではそれぞれ162件と195件もの海賊行為が報告されているのです。今後、こうした世界における海賊行為に各国がどう対応していくのかが注目されます。




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