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稲葉義泰のミリタリーレポート ─軍事と法から世界を見る─

稲葉義泰(国際法・防衛法制研究家/軍事ライター)

稲葉義泰

ロシアによるウクライナ侵攻の法的評価 後編

ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00255/2022033122411892836 //////////////////////////////////////////////////////////////// 稲葉義泰のミリタリーレポート ー軍事と法から世界を見るー https://foomii.com/00255 //////////////////////////////////////////////////////////////// ●ロシアによるウクライナ侵攻の法的評価 後編● ●法的根拠の評価① 個別的自衛権  まずは、個別的自衛権的要素の主張に関する評価です。そもそも、現在の国際法上は、武力の行使(他国に対する軍事力の行使)は原則的に禁止されており、それに対する例外の一つが自衛権の行使です。自衛権に関しては国連憲章51条に次のように明記されています。 「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない」  この条文からも読み取れますが、個別的であれ集団的であれ、自衛権の行使にはクリアしなければならない要件が存在しています。自衛権の行使には「武力攻撃の発生」が必要とされています。武力攻撃(armed attack)とは、武力行使の最も重大な形態と位置付けられているもので、つまり武力攻撃と武力の行使との間には質的な差があるわけではなく、あくまでも量的な差(=レベルの差)があるに過ぎないということです。従って、どのような武力の行使が武力攻撃を構成するかについては、その武力行使の規模と、それによりもたらされた被害の程度(規模及び効果)に基づいて判断されることになります。  また、1980年から1988年にかけて行われたイラン・イラク戦争中に、アメリカの軍艦やタンカーが機雷や対艦ミサイルで攻撃され、これをイランの仕業と断定したアメリカが自衛権の行使としてイランの海上石油プラットフォームなどに対する攻撃を行った「オイルプラットフォーム事件」に関して、国際司法裁判所(ICJ)は、こうした「規模及び効果」に基づく判断と併せて、攻撃を実施した主体が明確であるか(この場合はイランによる仕業かどうか)、そして攻撃が意図的であったか(この場合はイランがアメリカの軍艦やタンカーを意図的に攻撃したがどうか)という要素も、何が武力攻撃にあたるかを判断する際の基準になると判示しています。
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