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躁うつでアスペな酒呑み記者の「取材は愛」日誌

相澤冬樹(大阪日日新聞 編集局長・記者(元NHK記者))

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相澤冬樹

「取材は愛」を合い言葉に30年以上記者人生を歩み続けている元NHKで大阪日日新聞記者の相澤冬樹が、躁うつ病・アスペルガー症候群・飲酒癖について診療を受けながら自らの特徴に向き合う中で、取材や日常生活を通し気づいたこと、考えたことを綴る。

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躁うつでアスペな酒呑み記者の「取材は愛」日誌
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「取材は愛」相澤冬樹の報道放浪記
https://foomii.com/00177
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【「偉い奴からまず逃げる」コロナと満州と森友改ざんの共通点】
《「武漢で息はしたが地面を歩いたことはない」》
 新型コロナウイルスの知られざるエピソードから話を始めよう。今年1月、中国・武漢市で感染が拡大し、中国政府は武漢市を封鎖した。内陸の一大都市である武漢には多くの日本企業が進出しており、大勢の日本人が取り残された。そこで日本政府は邦人救出のためチャーター便を武漢に派遣し、1月29日、第1便で206人が帰国した。ここまではよく知られている事実だ。
 帰国者は、新型コロナに感染していないか確認する必要がある。そこで全員、千葉県内の宿泊施設に隔離され、感染症の専門医の診察を受けることになった。問診ではまず「武漢で海鮮市場に行きましたか?」と尋ねる。当時、そこが感染源と見られていたからだ(今は異説あり)。
 ところが彼らの多くは一様に「市場? そんなとこ行ったことありませんよ」と首を振る。問診を重ねるうちに医師たちにわかってきた。第1便で帰国してきた日本人は、進出企業の支店長・支社長や現地法人の社長など、大企業のトップクラスの人物が多いということ。彼らは武漢のホテル住まいで、ホテルと現地の支店や工場の間を運転手付きの車で往復する毎日だから、現地の人と接触する機会は極めて限られ、感染リスクも低いということ。中には「自分は武漢で息はしたが、地面を歩いたことはない」と自慢げに語った人物もいたという。
 それでよく商売になるなあとあきれる。ある感染症の専門医は嘆きながら語った。
「ひどい話だよ。支店長クラスがまず逃げてくるというのは、戦争が起きると大将が真っ先に逃げるというのと同じ。関東軍と同じだよ」
 もちろん、みんながみんなそうだったわけではないだろう。チャーター便を飛ばした全日空の支店長は、すべてのチャーター便を見送って最後の便で帰国したという。半月あまりの間に約800人が帰国している。
 それでも専門医から見れば、感染リスクの低い企業トップが、部下を残して真っ先に帰国することに疑問を抱かずにはいられなかっただろう。それが「関東軍と同じ」という発言になった。
《植民地支配の先兵は国に見捨てられた》
 ここに1枚の古い写真がある。両脇の夫婦は私の祖父母、真ん中の幼児は母だ。1940年代前半、戦争中の朝鮮、今のケソン郊外で撮られた。
 祖父は宮崎県の農村の大地主の家に生まれたが、次男坊だったから財産は何ももらえない。そこで当時あこがれの「大陸雄飛」を夢見た。「満州に渡って一旗揚げよう!」という夢を、戦前、多くの日本の若者が思い描いた。祖父は当時日本の植民地だった朝鮮に渡ったが、そこから満州へと進まずに朝鮮にとどまって小学校(のちに国民学校)の教師となった。
 祖母は長野県の生まれで松本女子師範学校(今の信州大学教育学部)を卒業し小学校の教師となったが、「朝鮮の女子に教育を」という政府の呼びかけに応えて朝鮮に渡った。そこで祖父と出会って結婚し、母が生まれたのが1941年(昭和16年)のこと。日米開戦の年だ。だから冒頭の写真は戦時中に朝鮮で撮ったものとわかる。
 祖父母は朝鮮で日本語を教えていた。つまり皇民化教育(日本が植民地などで行った同化教育)の先兵だった。だが祖父母にその自覚はなかっただろう。当時の日本人のごく普通の感覚として、国策に沿って教育にあたっていたと思う。
 祖母は地元の女性にキムチの漬け方を教わり、戦後帰国してからも本格的なキムチを漬け続けた。だから我が家にはいつも祖母のキムチがあった。自分で漬けるだけではなく、周辺の家庭の主婦に漬け方を伝授していた。皇民化教育の先兵だった祖母が、戦後、朝鮮のキムチの漬け方を日本で伝授したというのも感慨深い。もっとも祖母はキムチとは呼ばず、常に「朝鮮漬け」と呼んでいた。だから小学生のころ私はこの食べ物をキムチと呼ぶとは知らなかった。
 祖母は朝鮮半島の地名も日本風に呼んだ。住んでいたケソン(開城)は「かいじょう」、ピョンヤン(平壌)は「へいじょう」、ソウルは「けいじょう(京城)」、プサン(釜山)は「ふざん」。テジョン(大田)を「だいでん」と呼んだのは意外だった。「おおた」じゃないんだ…植民地時代の朝鮮の地名を日本人は漢字の音読みで呼んだ。
 そして迎えた1945年(昭和20年)8月15日。近所の神社が焼き討ちされたのを見て祖父は「敗戦」を実感したという。神社は朝鮮の人たちにとって植民地支配と日本文化の押しつけの象徴だったろう。
 祖父母が住んでいたケソンは、朝鮮半島を南北に分ける38度線の北側にあるから、ソ連軍が進駐してくる。身の危険を感じた祖父母は、国から助けのないまま、自力で南への脱出を試みた。祖母は男装したという。幸いケソンは38度線に近い。38度線を越え、半島を南へと進んで、プサンから漁船に乗って山口県萩市の港へ。そこから祖父の故郷、宮崎県児湯郡三財村(今の西都市)へとたどり着いた。祖母は祖父の死後も今年1月に106歳で亡くなるまで西都に暮らし続けた。
 祖父が芋焼酎に酔いながらしみじみ語ったことがある。「あの時、朝鮮にとどまって、満州に行かんでよかった…行ったら、生きて帰ってこられなかった」
 そうだろう。当時、日本の支配下にあった満州(今の中国東北部)には、国の呼びかけに応じて大勢の開拓民が渡っていた。彼らは現地の人たちにすれば土地を奪った支配者だが、私の祖父母と同じようにそういう自覚がないまま国策に沿って行動していただけだろう。いざとなれば無敵の関東軍が守ってくれると信じて。
 関東軍とは当時の満州に駐留していた日本軍のこと。もともと日露戦後に満州南端の関東州に駐留したからこの名が付いた。満州事変であっという間に満州全土を占領し、日本人から「無敵の精鋭関東軍」と信じられていた。
 ところが終戦間際のソ連軍の参戦。怒濤のごとく国境を越えて満州に進んでくるソ連軍を迎え撃つはずの精鋭関東軍はどこにもなかった。一部部隊が戦闘したが、「精鋭」と呼ばれる部隊は長引く戦争でとっくに南方の激戦地へと送り出されていた。国策で満州に渡った開拓民を守る者はなく、彼らはあるいは集団自決し、あるいは逃避行の中でやむなく地元中国人の家庭に幼い子どもを託さざるを得なかった。こうして中国残留孤児が生まれた。もしも祖父母が満州に渡っていたら、母は残留孤児となり、私が生まれることはなかっただろう。
 では関東軍の幹部はどうしたのか? いち早く事態を察知し、真っ先に飛行機で日本に逃げ去ったと言われる。これが冒頭の医師の「関東軍と同じ」というセリフにつながる。偉い奴からまず逃げる。残された庶民は散々な目にあう。
《森友改ざんで真っ先に逃げたのは?》
 さて、森友改ざんである。森友学園に国有地を8億円もの巨額値引きをして売り払った。ことが露見し国会で問題となるや、取り引きの経緯を記した決裁文書を後から書き換えた。安倍首相の妻、森友学園の小学校の名誉校長に就任していた安倍昭恵さんの名前は5か所すべてが消された。これが「森友改ざん」だ。森友とは言うが、森友学園や籠池前理事長夫妻は関係ない。財務省と近畿財務局内部で行われた。
 現場で実際に改ざんをさせられたのは、近畿財務局の上席国有財産管理官だった赤木俊夫さん。自身は土地取引には何の関係もないのに、たまたまことが露見した時に担当部署にいたばかりに、決裁文書という公文書の書き換え=改ざんをさせられた。こんなことはすべきではないと反対したのに、上司に無理強いされた。
 国民のために働く公務員の仕事に誇りを持っていた赤木俊夫さんは、反対したとはいえ、結果として不正な改ざんを行ったことに悩み苦しんだ。職場を異動させてほしいと希望したがかなえられず、逆に改ざんをさせた上司の池田靖氏の方が異動していった。自分は職場から見放されたのではないか? 大阪地検特捜部の捜査が進む中、現場の自分だけの責任にされるのではないかとおびえた。
 2018年(平成30年)3月2日、朝日新聞が公文書改ざんの疑いを初めて報じた。それでも財務省は何の反応も示さない。やはり自分だけのせいにされるんだ…追い詰められた赤木俊夫さんは、5日後、自宅で命を絶った。「これが財務官僚王国。最後は下部がしっぽを切られる。何て世の中だ」という悲痛な言葉を書き遺して。
 では、当時の責任者たちはどうなったか? 財務省理財局長として改ざんを指示したとされる佐川宣寿氏は後に国税庁長官に昇進(改ざん露見後に辞任)。佐川氏の指示を現場に押しつけたと赤木俊夫さんの手記で名指しされた中村稔 財務省理財局総務課長はロンドン公使に栄転。「全責任を負う」と発言して改ざんを最終決定したと書かれた近畿財務局長の美並義人氏は東京国税局長に栄転。みんな偉くなっている。
 それだけではない。近畿財務局で赤木俊夫さんの上司だった人たちが「赤木さんを食い物にした」「全員、異例の出世」と告発する文書が、妻の赤木雅子さんのもとに届いた。調べたところ、そこに書かれた異動はすべて事実だった。俊夫さんの直属の上司、池田さんのさらに上司にあたる楠(くす)敏志管財部長(当時)に至っては、処分直後に近畿財務局ナンバー2の総務部長になり、その後神戸信用金庫に天下っている。赤木雅子さんが訪ねると「過去のこと」「何も話さない」と逃げ回った。
 こうしてみるとよくわかる。偉い奴からまず逃げる。責任から逃げる。そして出世する。現場でまじめに頑張っている人が割を食う。満州でも、コロナでも、森友改ざんでも。この国は同じことを繰り返していないか? これでは卑怯者と嘘つきの天下ではないか。私は日本を愛する。だからこの国が正義漢と正直者の世の中であってほしい。
 赤木雅子さんは今、国と佐川氏を相手に裁判を起こしている。この裁判で佐川氏をはじめ改ざんや国有地取り引きに関わった人たちに証言を求めたいと考えている。さらに第三者による公正な再調査を行ってほしいと国に求め、賛同の署名は35万を超えた。
 7月24日、故郷・岡山にある俊夫さんの墓所を訪れた雅子さんからLINEが届いた。
「今日お墓参り行って思い出しました。昔から『僕はまあちん(雅子さん)より1日でもいいから先に死にたい』と言ってました。ひとりになるのは耐えられなかったんだろうと思います。私はもう2年もひとりで生きてるから強いみたいです」
「夫が亡くなった後、岡山の実家で私が泣き叫んでいたことを義姉から今日聞かされ、覚えていなかったのでびっくりしました。忘れてること、たくさんあります。池田さんたち、忘れる前に早く話してほしい」
 池田さんとは、俊夫さんの上司だった池田靖氏。国有地値引きと改ざんの両方に関わり、真相を知る立場だ。時がたてばいろんなことを忘れてしまう。早く話をしてほしい。
 すべては赤木雅子さんと私の共著の題の通り、「私は真実が知りたい」のだ。それが実現する時、この国は真に、正義漢と正直者の世の中に立ち戻れるはずだ。
●本はこちらから↓
www.amazon.co.jp/dp/B08CV4TBMK
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