総裁選の過程で行われた石破茂へのリンチ攻撃は、獰猛で凄惨で苛烈だった。巨大ないじめショーだった。14日の午後だったか、TBSの井上貴博が石破茂にインタビューする場面があったが、「ご自身の政治生命が終わるという声もありますが」などと、菅陣営に立った立場で追い打ちをかける言葉を乱暴に発し、石破茂にとどめを刺す打撃を容赦なく加えていた。地方の自民党支持者で石破茂を応援した者、党員投票で石破茂に入れた者に対して見せしめている。 石破茂の政治生命を絶つべく、マスコミが総がかりで動いている。2012年の参院選前後の小沢派議員に対する掃討排除劇を彷彿させるような、見ていて息苦しくなる迫害と虐待が行われ、石破茂の人格と名誉を傷つけていた。見ながら、判官贔屓の日本人の心性がどこかで発動して、石破茂を叩くマスコミを批判する声が上がるかと思ったが、それはなく、水に落ちた犬が棒で袋叩きされるままだった。今の日本社会の写し絵なのだろうと直観する。 これまで、石破茂は、マスコミの世論調査で、次の総理として期待する政治家の支持率トップを走っていた存在であり、日本の政治世界で決して異端の悪役ではなかった。 マスコミは、森友事件や桜を見る会の問題が起きたときは、真っ先に石破茂のコメントを撮って流し、与党の中からも批判の声が上がっていますと積極表象の配役で報道していた。自分たちの言いたい安倍政権批判を石破茂に言わせ、世論の喚起を促していた。石破茂はマスコミの注文に応え、的確で辛辣な安倍批判のメッセージを発していた。 石破茂はマスコミにとって貴重な政界の資産であり、ある意味で頼りの綱だったと言える。自民党内でただ一人、歯に衣を着せず安倍批判をする石破茂は、自民党の中に健全なバランス機能があることを証明する唯一の存在でもあった。ゆえに石破茂はマスコミに重宝され、世間の正論を代弁する役割を担わされ、世論での人気を高めていたと言える。その石破茂を、一夜で罪人のようにして取り囲み、無慈悲なリンチで失墜させ、平気で無価値化させるマスコミの行動に絶句する。… … …(記事全文3,507文字)
世に倦む日日
田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)