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山中俊之の国際教養から世界の行方を洞察する

山中俊之(著述家・芸術文化観光専門職大学教授)

山中俊之

僭越ながら、自民党総裁候補を地球的規模の課題対応の点から評価する
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ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00150/2021092219161485222 //////////////////////////////////////////////////////////////// 山中俊之の国際教養から世界の行方を洞察する https://foomii.com/00150 //////////////////////////////////////////////////////////////// 1.Column「僭越ながら、自民党総裁候補を地球的規模の課題への対応という視点から評価する」 <ポイント> 自民党総裁選挙候補者を地球的規模の課題への対応という視点から見ると、核廃絶という地球規模の課題に対して強い主張と具体策がある岸田氏が評価できる。 <コラム> 自民党の総裁選が始まった。マスコミは候補者のゴシップを探したり、政策の甘さを批判したりしている。 しかし、私は若干違った視点で見ている。 4人の候補者たちの議論を聞いて、「幅広い分野をよく勉強しているな」と感じる。 官僚や大学教授は一分野の専門家に過ぎないことが多い。でも総理目指す人はあらゆる政策テーマに通暁していることが求められる(実際には困難だが)。 ・年金 ・国民の給与をいかに上げるか ・台湾有事の際の対応 いずれも自分は不勉強なテーマ。 人事の仕事をしていたので、給与の問題は一定の専門知識もあった。しかし、そこでの議論は一企業としていかに賃金を抑えながらもモチベーションを上げるかというミクロの議論。 国民全体の給与を以下に上げるかという視点はないわけでないが小さかった。 もちろん、与党政治家であり、党の幹部を経験し、複数の大臣を務めれば、一般民間人よりははるかに幅広い政策について学ぶ機会が多いのは事実。それが本業ともいえる。しかし、その点を差し引いても、学ぶ点はあると思う。 さて、今回は、4人の候補者が、地球的規模の課題解決にどれだけ積極的でありグローバルリーダーとして評価されるかという点について、これまでの著作や発言などから読み解いていきたい。 ここでいう地球的規模の課題とは、国際的紛争の解決、地球環境問題、貧困への対応、人権問題の解決などを指している。 まず、明らかにしておきたいのは、外交と地球的規模への課題への対応とは必ずしも同じではない点だ。 外交というのは、あくまでも一国の国益の実現のための様々な活動のことである。他国や国際機関との協調はありえるが、原則的に国という単位で考え、行動する作用だ。今回の総裁選でも、「対中外交をどのように進めるか」「北朝鮮のミサイル攻撃に対してどう対応するのか」というのは、典型的な外交のテーマである。 地球的規模への解決というのは、地球全体の利益という視点がまずあり、そのためにできる課題解決を一国のリーダーとして行うことだ。 もちろん、両者は重なることもある。気候変動問題への対応は、地球規模の課題解決であるが、すべての国が影響を受けるという意味では重なっているといえるだろう。 全世界の気候変動問題解決をリードするのか、自国の温暖化ガス排出を削減することに重点を置くのか、によって違いはある。前者の方が、より地球環境問題への解決に近しいことは言うまでもない。 また、地球規模の課題解決のように見せながら、実は自国の国益のための行動もある。米国は、人権問題であるとして、多くの国に関与するが、親米的な国、例えばサウジアラビア国内の女性の人権やシーア派など少数派弾圧といった人権問題には関与しない。自国の国益のために使い分けているのは明らかだ。 前置きが長くなったが、以上を前提に4人の候補者について、僭越ではあるが、評価したい。なお、私が入手できた資料や聞いた議論を基にしているので、抜け漏れによる判断違いがあり得る点には何卒ご容赦頂きたい。 届け出順に、まずは、河野太郎氏である。 河野氏は、脱原発や再生可能エネルギーへの注力など、エネルギーや気候変動問題については、積極的な課題解決を志向している。 また、「アジア、中東、アフリカ諸国の実情に寄り添って、これら諸国の発展に貢献したい」という発言を度々している。外相時代、中東を頻繁に訪問して、同地域の安定に寄与しようとしたことはよく知られている。 アジアの東端に位置しながらいち早く経済発展を遂げた日本は、西洋と東洋、欧米とその他をつなぐことができる(ブリッジできる)立ち位置にあると、私も思っている。同氏の主張するブリッジについては、私も賛成である。 一方で、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みをはじめ地球的規模の課題への取り組みへの熱意は私の見聞する限りあまり感じられない。日本は衰えたといっても世界第3位の経済大国。日本の首相として地球規模の課題をリードするといった主張はもっと欲しいと思う。 次に岸田文雄氏である。 著作や発言を聞く限り、地球的規模の課題への取り組みに一番積極的なのは岸田氏であると感じる。 その理由は、核廃絶に対する強い思いとその実現のための現実的な戦略である。 岸田氏というと、安倍首相のもとでの外相というイメージが強い。タカ派の安倍首相の下で外相をしていたので、「岸田氏も安倍亜流のタカ派だろう」と思っていた。 しかし、同氏の「核兵器のない世界に」という著書を読んで見方が変わった。広島出身政治家として、親戚を原爆で失った者として、核廃絶に極めて強い思いを持っており、そのための努力をしてきていることだ。 まずは核軍縮を行い、ある水準以下のレベルまで落としたら、保有国合意のもとで核廃絶にまでもっていくという構想を持っている。中国まで含めるとこの道筋は決して簡単ではないが、単なる絵空事でもない。実際に、岸田氏主導で核軍縮に向けた各国間の協議も行われてきた。 人権問題担当の首相補佐官も設置するなど、地球の課題解決に向けた視点は感じられる。 第三に、高市早苗氏である。 もし当選すれば初の女性首相という点で、世界的に注目を浴びることは間違いない。「あの男女差別的な日本で女性首相が生まれた!」という驚きの報道が続くに違いない。世界のジェンダー平等に一石を投じるという点では、意義がある。 しかし、高市氏の発言を聞いている限り、安全保障をはじめ日本の国益についての政策は相当網羅しているが、地球的課題の解決への言及は少ないと思う。 さらに、もし首相に就任した場合は、過去にヒトラーを賞賛したり、ヒトラー礼賛者とともに写真をとったりしたことが、世界のメディアで強く非難されるであろう。随分と昔のことであり日本のメディアはあまりこの点は取り上げていないが、世界での関心は強い。「日本の首相は親ナチス」といった報道は、日本の国際的なイメージを大きく損ねる。 最後に野田聖子氏である。 野田氏というと、小泉首相の郵政解散で、郵政民営化に反対して離党したイメージが未だ強い。そのため守旧派のイメージで見ていた。 しかし、この回の出馬表明を聞いて、女性や子供、障がい者といった弱き人々の立場の政策を重視されていることが良く分かった。この点は大いに評価したい。 もっとも地球的規模の課題解決についての言及は少ないようだ。野田氏は高校時代に米国で過ごしているようであるが、社会人になって以降の海外での勤務経験はなく、外相や防衛相といったポストを経験していないこともあるのであろうか、地球的規模の課題への関心が薄いように感じる。 なお、ジェンダー平等を強く主張する女性首相誕生の世界での影響は高市氏以上にあるかもしれない。もっとも、ほぼ間違いなく総裁選では4位に沈むと思われるので、これ以上の言及はしないが。 以上から、地球的規模の課題解決という点では岸田氏に軍配を上げる。首相に就任後、国連総会などで広島出身の首相として原爆の悲惨さを強く主張して、核廃絶の具体的道筋を訴えると世界は間違いなく注目するだろう。日本人が思う以上に、「ヒロシマ」は世界でインパクトがある。世界で唯一の被爆国として、世界に対して貢献できるテーマだろう。 なお、読者の皆さんには余談に過ぎないが、総合的評価としては河野氏を支持している。首相の評価は地球的規模への対応だけではない。困窮者への支援を含めた経済財政政策、国民への説明責任、安全保障問題、対米・対中外交、気候変動問題への対応、選択的夫婦別姓、同性婚など多岐にわたり、それらの点を総合的に考慮すると河野氏の政策が勝っていると考えるからだ。 2. 厳選:グローバル英語メディア 今度の世界を考える上で重要な洞察につながる「重要な記事」「面白い記事」を、世界最高レベルのメディアであるEconomistやNew York Times から厳選します。記事のタイトル、要約(●の後の2-5行、著作権に配慮して原則無料公開部分からの要約)、<山中コメント>に分けた形で提示いたします。 また、英字紙で活用されている時代を象徴する英語、新しいトレンドの英語、適切な英語表現についても、可能な限りで言及していきます。 各項目の後の印は、 ◎=今後を見る上で重要な一押し記事(毎回1-2程度選択) ●=重要記事 ■=SDGs(国連の定める持続可能な開発目標)関連 を意味しています。 <英語メディアに乗るワンランク上の英語表現> I would like to offer my sincere congratulations to the government and people of Nepal on the occasion of their National Day(ネパールのナショナルデーに際し、ネパール政府と国民の皆さまに心からの祝意をお伝えします):Japan Timesに掲載されている、二階自民党幹事長(日本ネパール友好議連会長)のメッセージである。典型的な外交儀礼的な表現であり、何ら目新しくない。外交だけでなくビジネスシーンでも、取引先企業の記念式典などで使える正式な洗練された表現である。 social media savvy(ソーシャルメディアをよくしっている人):savvyの前に名刺をつけて、「〇〇が得意な人」という意味になる。high-tech savvy, mobile savvyといった表現になる。 (1) 国際政治経済からの洞察 ●<外国人を作り出すインド> 移民に対して他の宗教の人には与えても、イスラム教徒には市民権を与えないことにより、意図的に外国人を作っている(manufacturing foreigners)。 ‘They Are Manufacturing Foreigners’: How India Disenfranchises Muslims - The New York Times (nytimes.com) (New York Times 英語版) <山中コメント> 本事例は、アッサム州などで2019年ころから問題になっていたが、manufacturing foreignersという表現は衝撃的である。信仰による差別であり、人権侵害である。国際社会が是正を求めていくべきだ。 ●<反体制派APPがロシアの選挙に反プーチンとして介入したが敗北> 下院選が行われているロシアで、ナワリヌイ氏らの反体制派がAPPでプーチンを攻撃している。 Could Navalny’s ‘Smart Voting’ Strategy Shake Up Russia’s Election? - The New York Times (nytimes.com) (New York Times 英語版) <山中コメント> ロシアの下院選の投票が17-19日に実施された。与党「統一ロシア」 の支持率は低迷しているので、反体制派は何としても支持を広げたいところだった。結果プーチン氏の与党が3分の2の議席を得た。 ●<戦闘よりも統治は難しい> タリバンは、現実のビジネスを動かしていく難しさに直面している。病院は機能せず、皆がひもじい思いをしている。戦闘(insurgency)よりも、統治(governance)は難しい。 The Taliban get down to the tedious business of running a country | The Economist (Economist 英語版) <山中コメント> タリバンは、戦闘は得意でも、統治は苦手なのだ。統治を進めるには、各国の資金面を含めた援助が不可欠。タリバンが欧米など諸外国に対して軟化してくる可能性があると思う。 ●<菅首相退任で日本は再び不安定な時代に> 菅首相が突然辞任を表明した。自民党の総裁選挙は4人(注)で争われる見込みであるが、対米外交、対中外交、金融財政政策ともに大きな違いはないだろう。日本は、首相が何人も変わる不安定な時代に再び突入する。 (注)原稿が野田聖子氏の出馬表明前であるため、4人とは河野、岸田、高市、石破の4氏を指している。 Suga Yoshihide’s resignation heralds an era of uncertainty for Japan | The Economist (Economist 英語版) <山中コメント> 他の海外メディアを含め世界の見方は、日本政治が何人もの首相が短期で交代する不安定な時代に突入することを一番関心を持ってみている。河野氏が改革志向であり、国民に人気があることは書かれているが、世界から見ると大きな関心ではないのだろう。菅首相の辞任表明を、米国大統領選挙のOctober Surpriseになぞらえて、September Surpriseと表現している。また、河野氏を、vaccine tsar(ワクチンのツアーリ(皇帝))、social media savvy(ソーシャルメディアをよくしっている人)と表現しているのは参考になる。コラムも是非お読みください。 (2) ビジネス・ソーシャル・アート ●<中絶を合法化しても遠き道> 中絶を合法化したメキシコであるが、手続きが複雑であったり、医師が中絶手術を拒否したりと中絶が簡単にできる状態ではない。 Mexico’s Path to Legalizing Abortion - The New York Times (nytimes.com) (New York Times 英語版) <山中コメント> 本ウェブマガで何度もお伝えしているように、中絶はカトリック教国では常に世論を二分する大きな社会的テーマである。合法化しても、医師が拒否するので事実上できないことがあるという指摘は、社会における問題の根深さを改めて感じる。 ●<欧米で異なるケーブルテレビ> ネットフリックスの影響で米国ではケーブルテレビの契約数は大きく減少。しかし、価格面やコンテンツ面で、欧州ではケーブルテレビむしろ増えている。 As Americans cut the cord, Europeans sign up for more pay-TV | The Economist (Economist 英語版) <山中コメント> ネットフリックスのようなインターネット配信が世界各地で優位になっていくと思っていたが、違うようだ。文化や嗜好の違いもあるのかもしれない。日本は、地上波の影響がいまだ強いように感じる。 ●<生物学の新たな動きが病気を治す> 合成生物学(Synthetic biology)は、これまで組織、細胞、分子、遺伝子と細かく分析する生物学と逆方向の分野。組織、細胞、分子、遺伝子の合成によって病気を治すという新たな取り組みが世界で進む。 How Biology is Getting a Technological Makeover - The New York Times (nytimes.com) (New York Times 英語版) <山中コメント> この記事を読むまで、合成生物学については知らなかった。今後の可能性を自分としても追求していきたい。科学は近代以降細かく分析する方向で発展してきたが、その動きを反転する内容である。 ◎●<芸術と人種の問題は現代の大きなテーマ> パリのバレエ公演において、黒人のダンサーや演奏者が少ないことを問題視するレターが、複数の黒人ダンサーからバレエカンパニーに提出される。 Paris Opera to Act on Racist Stereotypes in Ballet - The New York Times (nytimes.com) (New York Times 英語版) <山中コメント> 少し前の記事であるが、芸術と人種差別を考える上で重要と思われたので紹介したい。演劇やダンスといった舞台芸術においてどの人種の俳優、ダンサーを使うのかは常に大きな課題である。「マダム・バタフライ」のように、日本人女性が主人公のオペラで、白人や黒人の俳優が演じることに、違和感を感じる人もいる。しかし、物語の設定に合わせて人種を選ぶと、「アイーダ」「オセロ」などアフリカ人、黒人が登場することが前提の設定でなければ、白人俳優ばかりが選ばれることになる。 <編集後記> 京都南座で、中村獅童さんと初音ミクのコラボ作品を鑑賞しました。初音ミクは、立体的なアバターとして投影されるのではなく、あくまで画像としての登場でしたが、リアルとバーチャルの融合は、演劇の分野でも益々進んでいくのだと思います。まだ、チケットも余っているようです。新しい芸術の形を考える上でも、大変にお勧めです。 //////////////////////////////////////////////////////////////// 本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛に返信をお願いいたします。 //////////////////////////////////////////////////////////////// ■ ウェブマガジンの購読や課金に関するお問い合わせはこちら   info@foomii.com ■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/ //////////////////////////////////////////////////////////////// 著者:山中俊之(国際公共政策博士/元外交官) ウェブサイト: http://www.yamanakatoshiyuki.com/ Facebook: https://www.facebook.com/toshiyukiyamanaka ////////////////////////////////////////////////////////////////

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