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島倉原の経済分析室

島倉原の経済分析室

経済に関する報道や言論の多くは、現実とはかけ離れた歪んだものになっています。その背景には、非現実的な前提に基づく主流派経済学の教えが存在します。日本経済の「失われた20年」といわれる長期停滞も、そうした背景のもとで誤った経済政策が続いてきたことが原因です。

本メルマガでは、主流派経済学が軽視する「景気循環論」などを用いることによって、世界中で頻発しているバブル崩壊や金融危機のメカニズムをはじめとして、現実の経済や金融市場の動向、そして社会の真相を解き明かしていきます。

読者からの質問も随時募集し、メルマガを通じて適宜回答する予定です。マスメディアや雑誌では得られない一味違った情報源として、ぜひ有効にご活用ください。

発行者:島倉 原(経済評論家) 価格:540円/月(税込)

 
                                                        2015/09/01発行
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                          島倉原の経済分析室



                    「人民元切り下げ」の正しい評価

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2015年8月11日、中国の中央銀行である中国人民銀行が、自国通貨である人民元の対ドル基準値の算出方法を変更すると発表した。
それ以降の3日間で人民元の対ドルレートは約3%切り下げられた。
その後金融市場は不安定化し、世界的な株安が発生、日経平均株価も直近のピークから一時15%近く下落した。

こうした状況のもと、中国人民銀行の政策変更に対して、「輸出拡大を狙った自国通貨安誘導で、各国の通貨安競争を誘発しかねない、経済大国として問題の大きい措置である」「中国自身が目指す人民元の国際化、金融・資本市場の自由化にも逆行する」という批判的な議論が一般的のようである。
http://www.sankei.com/world/news/150813/wor1508130008-n1.html
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM11H2B_R10C15A8EAF000/

これに対して、「今回の切り下げは人民元安を誘導したものではなく、むしろ人民元の国際化に向けて前進したと言えるのではないか」という正反対の議論も存在する。
http://diamond.jp/articles/-/77221
http://jp.reuters.com/article/2015/08/25/column-forexforum-ryutarokono-idJPKCN0QU05Y20150825?sp=true

果たしていずれの見方が適切なのだろうか。

筆者は、先進国=新興国間の資金の流れに20年弱の周期が存在することに着目し、18年前のアジア通貨危機に匹敵する新興国危機が新たに発生する可能性について、昨年から警鐘を鳴らしてきた。
その一環として、中国の実体経済の弱さはいずれ株高や人民元高を維持できなくなるレベルのものであることも、上海株式市場が今年のピークをつけた6月に発信した。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-66.html
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/06/04/shimakura-25/
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-97.html

実際、中国の経済活動の全体的な動向を示す鉱工業生産は、人民元の実質実効レートと、きわめて明確な逆相関の関係にある。
直近では、鉱工業生産の伸び率が近年にない低さを示す一方で、人民元の実質実効レートはBIS(国際決済銀行)の統計開始来の高水準に達している。

(参考図)中国鉱工業生産と人民元実質実効レートの推移
http://on.fb.me/1Cqwx37

現実の経済とは、主流派経済学が想定する均衡状態とはおよそかけ離れたものである。
金融市場におけるバブル発生とその崩壊に見られるように、行き過ぎた不均衡状態への到達とそこからの揺り戻しを周期的に繰り返している。
直近はいわば不均衡の極みに至った状態で、いずれ維持できなくなることは必然であったと言えるだろう。

確かに、今回の人民元切り下げが世界の金融市場に与えたインパクトは大きい。
前回のアジア通貨危機の際には、アジアをはじめとした新興国の通貨が暴落する中で、人民元は切り下げられることなく、対ドルレートはほぼ横ばいで推移した。
したがって今回の人民元切り下げが、「中国経済の実態はそれほど悪いのか」という印象を世界の市場関係者に植えつけたのは、まぎれもない事実である。
しかも、中国はいまや世界第2位の経済大国なのだから、そのインパクトもまた18年前より大きいだろう。

しかしながら、「切り下げ=為替操作」という批判は、少なくとも今回はあたらない。
そのことは、中国の外貨準備高が昨年7月以降減少傾向にあることから明らかである。

中国のような経常収支黒字国では自国通貨高圧力がはたらくため、これを抑制しようとすれば「外貨買い・自国通貨売り」という介入措置が必要になり、結果として外貨準備高が積み上がるのが通常である。
実際、この20年近くの中国はこうした措置を継続した結果世界最大の外貨準備保有国となり、「人民元を不当に安くしている」という批判をしばしば浴びてきた。

ところが、直近では先進国=新興国間の資金循環を背景とした資本流出のインパクトの方が大きく、市場ではむしろ人民元安圧力がはたらいていた。
すなわち中国当局は、為替レートを維持するために外貨準備売り・人民元買いという「元高介入」を実施せざるをえない状況に追い込まれており、その結果が昨年7月以降の外貨準備高減少なのである(18年前のアジア通貨危機当時には、それまでの外貨準備高の増加傾向が横ばいないしは微増に減速する程度で踏みとどまることができた)。

今回の切り下げは、むしろこうした介入圧力を弱めた措置である。
「国際化や自由化の流れに逆行している」という評価の多くは、恐らくは過去20年近くの推移にとらわれて状況の変化を見過ごしたか、あるいは「切り下げ」という言葉の持つ人為的なイメージにとらわれているのかもしれないが、およそ実態を正確にとらえているとは言いがたい。
もっとも、今回の措置が「国際化や自由化に向けて前進した」とまで言えるかどうかは、(冒頭で紹介した論者の1人であるBNPパリバ証券のエコノミスト、河野龍太郎氏も述べているように)市場実勢が将来人民元高方向に逆転した際の、中国通貨当局の姿勢によって試されることになるだろう。

以上より、冒頭で述べた議論の対立に関しては、後者、すなわち今回の切り下げは人民元の国際化に矛盾しないとする立場の方が紛れもなく適切である。
だからこそ、人民元の国際化にお墨付きを与える立場にあるIMFも同じく8月11日、自由化に向けた一環として、今回の人民元切り下げを歓迎する声明を発表したのである。
http://jp.reuters.com/article/2015/08/13/china-markets-yuan-imf-idJPL3N10O07A20150813


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著者:島倉原
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