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山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。

山田順(ジャーナリスト・作家)

山田順

石原慎太郎氏が提起した複式簿記問題を無視するメディア。やはり絶望未来か?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━    山田順の「週刊:未来地図」 No.008 2012/10/30 石原慎太郎氏が提起した複式簿記問題を無視するメディア。やはり絶望未来か? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  おはようございます。山田順です。石原新党ができ、「第3極結集か?」などと、メディアは連日大騒ぎしています。しかしいま、この国の抱える問題を深く掘り下げる報道は皆無です。これでは年内に解散があろうとなにも変わりません。   いま、私たちが見ているのは国家の大混乱であり、日本がどんどん衰退していくという悪夢のような現実です。 [目次] ─────────────────────────────── ■大新聞は会見で指摘された問題をことごとく無視 ■尖閣は引き金、本質的な問題は日本の国力の衰え ■複式簿記、バランスシート、財務諸表がない国 ■明治22年に導入以来ずっと現金主義でやってきた ■石原東京都にならって橋下大阪府も複式簿記を導入 ■じつは国も複式簿記をつくって公開はしているが… ■「日本国は絶対破綻しない」なんてただの幻想 ■問題を先送りせず、負担を分かち合うしか解決策はない ■特例公債法案が成立しないと困るという屁理屈 ■アダム・スミスが『国富論』で指摘していることとは? ■複式簿記を導入して一刻も早く破産宣告を ■財務官僚、財務省による日本支配システムの構造 ■明治以来蓄積された財務省ファミリーの人脈名簿 ─────────────────────────────────── ■大新聞は会見で指摘された問題をことごとく無視  10月25日、石原慎太郎都知事の記者会見をテレビでずっと見ていた。そうしていろいろなことを考えさせられた。石原氏が述べたことはいちいちもっともで、この国が抱える問題点を次々と指摘していた。愛国保守、右寄り、などという政治スタンスは、この際、どうでもよい。本当に日本を改革できるかどうか? それを実行できるのか? それだけがいまの大問題である。  しかし、そのように認識しているメディアは少ないようだ。一般の国民も同じだ。石原氏が記者会見で述べた問題点がどれほど深刻な問題なのか、ほとんどの人間がわかっていないのではないか。  だから、翌日の新聞には、石原会見の中身が見事に抜け落ちていた。とくに、朝日新聞は、「石原新党ができて政局がどう動くのか」という観測記事で埋め尽くされていて、石原氏が指摘した「官僚政治の弊害」「会計制度が単式簿記という時代錯誤」などについてはまったく触れていなかった。 ■尖閣は引き金、本質的な問題は日本の国力の衰え  石原慎太郎氏が「最後のご奉公」と言い、「なぜオレがやらなければならないんだ。若い人はどうしているのだ」と言ったのは、このままでは日本が本当に潰れるからである。人口減による経済の縮小は止まらず、借金財政の限界による財政破綻が目前に迫っているからである。  石原新党の誕生は、「尖閣問題」が引き金になったのは確かだ。しかし、それだけの話ではない。尖閣問題に象徴されているのは、いかに日本の力が衰えているかだからだ。北京は、日本が弱っているいま、ボディブローを出し続ければやがて尖閣は手に入ると考えている。だから、毎日のように接続水域に侵入したり、領海を侵犯したりして、既成事実を積み上げている。    それだけを見て、メディアは領土・外交問題として報道するが、それは本質的な問題ではない。本質的な問題は、日本の国力が衰えていることだ。エルピーダやルネサスなどの半導体産業、そしてシャープやパナソニックなどの家電産業の崩壊、さらに毎年くるくる変わる総理大臣と政局の混乱を見れば、バカでもこの国が弱っているのがわかるだろう。  つまり、本当の問題は、これ以上の衰退を止め、この国を立て直せるかどうかだ。 ■複式簿記、バランスシート、財務諸表がない国    石原氏の会見のポイントは、次のようなことだ。 「具体的な行政となると日本の財政はピンチというが、まだまだ余力がある。それを引き出せないし使えない。中央官僚が把握していながら、それを隠している」 「東京として国家との摩擦のなかで感じてきたことは中央官僚の独善。発想力がないことが欠点だ。ないからこそ自分で責任を持って判断し、解決しようとしない。尖閣の問題でもすべて官僚は自分の手で解決しようとしない。こうした通弊を変えなくてはならない。メディアはなんで批判しないのか」 「国の会計方式は単式簿記だが、こんな会計方式でやっているのは北朝鮮とパプアニューギニア、フィリピン、マレーシアとかくらいだ。 なぜ複式簿記にしないのか」 「また、なぜかほとんどの自治体は外部監査を入れていない。そういうことをどうして役人がやらないのか。経済界もうとくて歴代の経済団体の会長にいってきたが、『はあ』というだけでよく知らない。 だからバランスシートがない。財務諸表がない。これで、健全な財政ができるわけない」 ■明治22年に導入以来ずっと現金主義でやってきた  石原氏が指摘するように、日本の公会計には複式簿記がない。 不思議なことに日本では、これまで国も地方自治体も、会計は単式簿記によって行われてきた。公官庁には現金出納簿、いわゆる大福帳があるだけなのだ。つまり、現金の出入しか記録されていない。  なぜ、こんなことになったのかというと、明治政府が、明治22年(1889年)に当時のプロイセンのカメラル式簿記(単式簿記・現金主義)を導入して以来、ずっとこれでやってきたからだという。単式簿記も会計方式として否定されるものではないが、これだとストック情報・コスト情報が不足してしまい、正確なコストの把握ができない。だから、企業は単式簿記を採用していない。  単式簿記とは、簡単に言えば、家庭の家計簿である。給料などの収入と、食費や生活費などの支出の二つで構成されている。これに対して複式簿記というのは、大きく貸方・借方に分けて記録される。現金の出入りに加え、土地や建物などの資産や、借入金などの負債を含めた財産全体を捉える会計処理手法と言うことができる。家計簿で言えば、現金の出入りに加えて、自宅などの不動産や各種ローンも帳簿に明記すると考えればいい。  企業は複式簿記で財務を管理し、貸借対照表や損益計算書の名称で決算期に公表している。それが、投資家に対しての責任だからだ。しかし、日本では自治体も国もこれをやっていない。これは、納税者の国民に対して、なんの説明責任を果たしていないということだ。  また、これまで単式簿記でやってきたから、ここまで国家財政が悪化してしまったとも言えるのだ。 ■石原東京都にならって橋本大阪府も複式簿記を導入  石原都知事は、2006年度から東京都の公会計に複式簿記・発生主義を導入した。そうして、議会に対して東京都の財政・会計状況を報告してきた。日本の数ある自治体のなかで、東京都が黒字健全財政を維持できているのは、このせいでもある。  石原都政には批判も多いが、このことだけは大きく評価されていい。しかし、メディアは、このことを取り上げない。  石原新党と日本維新の会の連携がさかんに言われているが、じつは橋下徹大阪市長は、府知事時代に、東京都にならって大阪府に複式簿記を導入している。これによって、大阪の予算のあり方が劇的に変わった。
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