Foomii(フーミー)

渡邉哲也の今世界で何が起きているのか

渡邉哲也(作家・経済評論家)

渡邉哲也

第184回 欧州銀行同盟構想の問題点

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━     渡邉哲也の今世界で何が起きているのか     2012/06/05       第184回 欧州銀行同盟構想の問題点 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★銀行同盟構想  現在のシステムでは、各国の銀行が危機に陥った場合、各国政府が救済や資本注入を行 い、各国中央銀行が流動性を供給することで危機を脱却する仕組みとなっている。しかし、 欧州の場合、各国中央銀行の権限が失われているため、各国中央銀行だけでは十分な流動 性供給が出来ない。これが銀行危機を悪化させている原因である。  また、危機に陥っている国の場合、政府の資本注入などの限界があり、巨大な金融資本 の危機に対しては、対応しきれないのが現状となる。逆に言えば、これに対応した場合、 政府に危機が波及し、国のデフォルトを促進することになる。 しかし、資本注入などで 銀行危機を抑え込めないと、各国の国債の買い手がいなくなり、国債金利が上昇するとと もに、資金調達が困難となり、デフォルトを促進することになる。  現在、スペインなどが陥っているのが、この状況であり、銀行危機が政府の危機を呼び 込む状態になっているのだ。また、このような危機は国からの資金の流出を促進し、国内 の富の流出は国を根幹から破壊してゆく、不動産の下落を促進し、株式や債券の投げ売り も発生させる。 ★銀行同盟の問題点  この問題を解消しようというのが、銀行同盟であり、欧州連合及びESBが直接的に、銀 行への救済処置や資本注入を行うことで、銀行危機を封じ込めるというものである。これ には非常の大きな問題があり、ドイツはこれに強く反対している。 1,財源問題 銀行危機を救うためには膨大な資金が必要となる。この資金調達のために は欧州共同債などの発行が不可欠となり、これは欧州連合の健全な国(ドイツなど)の協 力が不可欠なのだ。そして、このような信用提供は、健全国の負担が大きくなる。 2,管理監督問題 銀行同盟を作ったとして、何処がどのように管理監督するかというこ とが大きな問題となる。あくまでも、各国の銀行は各国の法律とシステムで運用されてい る。当然、銀行同盟を作る場合、銀行システムに関する共通ルールを作る必要が生じるわ けである。これには各国議会の承認も必要となり、政治的なプロセスが大切となる。  これを行わずに銀行同盟を作った場合、各国の恣意的運用により、銀行同盟が大きな不 利益を受ける可能性が高い。これで恩恵をうけるのは、危機に陥った国とその国の銀行だ けとなる可能性もある。 3,金融支配構造 国際金融を行う銀行は一種の植民地支配の道具であり、経済戦争の最 大の武器となっている。戦後の植民地支配の構造は、農業プランテーションから工業化に 伴う金融や資本を利用した資本プランテーションへと変質した。株式を保有することで、 配当の形で各国の企業利益は資本国に移転し、金融を行うことで利子の形で資本国に還元 される構造になっている。    この意味では、経済戦争において各国の銀行は最大の武器となる。逆にこれが弱体化し た場合、それを利用し、植民地支配の利権の奪い合いが行われることになる。スペインな どが保有する利権の多くは、南米がその代表格となるが、かつての植民地時代からの利権 の継続であり、これを欲しがる国は多い。弱体化はこの利権を欲しがる国にとっては大き なチャンスとなり、1000兆円といわれる欧州銀行の持つ対外資産を安く買い叩きたい国は 多い。  このような問題点から、銀行同盟構想はなかなか前に進まない物と思われる。 ■スペイン:救済回避模索、ドイツと綱引き-G7電話会議へ http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53COQ6KLVRC01.html  危機解決に、救済とは異なる方法を求めるラホイ・スペイン首相の懇願を却下した形だ。 ラホイ首相は2日、危機解決の新たな道筋の1つとして、銀行資本増強に向けた欧州全域 での中央集権的な「銀行同盟」を支持する考えを示した。一方、メルケル独首相は同日、 ユーロ共同債には「いかなる状況下でも」同意しないと表明し、危機対応のもう1つの選 択肢を閉ざした。 ■レーン欧州委員と仏財務相、銀行への直接資金注入を強く主張 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53P586VDKHS01.html 、ブリュッセルで記者団に対して「政府と銀行の連鎖を断ち切る手段としてこれを検討し てきた」とし、「銀行への直接資本注入という代替策を考慮することが重要だ」 ■欧州委員長と独首相、銀行同盟について協議へ http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53IJT6VDKHX01.html ■レーン欧州委員:銀行の直接的な資本増強、検討が重要 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53HWW6K50XU01.html ■ノボトニー氏:銀行同盟、適切な構想だが実現には時間要する http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53KNC6VDKHS01.html ■メルケル独首相、スペイン前首相に2回に救済進言-ムンド紙 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M52VRU6KLVR401.html ■スペイン、年金減額と退職年齢の引き上げ検討も-現地紙 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M52Z2F1A1I4H01.html ■ポルトガル商業銀行など3行に計66億ユーロ余り注入へ-政府 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53FEZ6KLVR801.html ■ギリシャのユーロ離脱確率は3割超、数カ月以内にーS&P http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53W6T6S972901.html ●ユーロ圏:4月の生産者インフレ率2.6%-10年3月来の低水準 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M534RI6KLVR401.html 景気の落ち込みで物価圧力が弱まる中でエネルギー値上がりが鈍化しインフレを抑えた。 ●米財務省:欧州が危機で行動加速させるよう期待-声明 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M541MS6KLVR401.html ●S&P500種は弱気相場入りも、欧州危機悪化で-ゴールドマン http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53VV86S972801.html ●米製造業受注額:4月は2カ月連続マイナス、前月も下方修正 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53J436K50XU01.html ●米経済3年連続減速へ、FRB議長が議会証言で追加策示唆も http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M52XIV6KLVR501.html ■中尾財務官:為替含め国際金融市場について日銀理事と緊密に意見交換 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53A5O0UQVI901.html ──────────────────昨日の市況───────────────── ■今日の国内市況(6月4日):株式、債券、為替市場 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M52Z2H6JTSE901.html ●TOPIXバブル崩壊後安値、米雇用減速しリスク回避-83年来水準  東京株式相場は4日続落し、TOPIXは3年3カ月ぶりにバブル経済崩壊後の最安値 を更新した。雇用統計などを受け米国景気の減速懸念が強まったほか、欧州情勢や為替の 不透明感もあって投資家のリスク回避姿勢が継続。自動車など輸出関連、鉄鋼など素材や 資源関連、金融株などが幅広く売られた。  TOPIXの終値は前週末比13.42ポイント(1.9%)安の695.51、日経平均株価は同14 4円62銭(1.7%)安の8295円63銭。 ●円がじり安、介入警戒感で一段の買い慎重-対ドルは78円台前半  東京外国為替市場では、円がじり安となり、ドル・円相場は1ドル=78円台前半を中心 に取引された。米雇用統計の結果を受けてドル売りが進んだものの、円の上昇局面では日 本の当局による円売り介入が警戒され、ドル安・円高の進行は限定的となった。  ドル・円相場は午前に78円04銭を付けた後、78円45銭までドル高・円安が進行。午後に かけて78円台前半を維持し、午後3時37分現在は78円20銭付近で取引されている。前週末 の海外市場では、米国の雇用統計を受けてドル売りが活発化し、一時77円66銭と、2月14 日以来の水準までドルが下落。その後は、日本の当局による円売り介入が警戒され、78円 71銭まで急速に値を戻していた。 ■グローバル・ストックマーケット・サマリー【アジア・太平洋編】 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53GMQ07SXKX01.html 【香港株式市況】  香港株式相場は下落。指標のハンセン指数は年初来の上昇分が消失した。米雇用統計や 中国のサービス業の指標は双方とも期待外れの内容となり、米中の経済が減速していると の見方が広がった。  北米での売り上げがほぼ4分の3に上る電動工具メーカーのテクトロニック・インダス トリーズ(創科実業、669 HK)は3%の下げ。米ナイキの靴を受託生産する裕元工業(集 団、551 HK)も値下がりした。米ラスベガスのカジノ運営会社のアジア部門、サンズ・チ ャイナ(1928 HK)は4.8%安。  ハンセン指数は前週末比372.75ポイント(2%)安の18185.59と、昨年12月20日以来の 安値で終了。49構成銘柄のうち1銘柄を除き値下がりした。ハンセン中国企業株(H株) 指数の終値は2.6%安の9375.33。2月29日に付けた年初来高値から20%余り下落し、弱気 相場入りした。 【中国株式市況】   中国株式相場は、6カ月ぶりの大幅な下落となった。5月の中国の非製造業購買担当者 指数(PMI)で非製造業活動の伸びが2カ月連続で鈍化したほか、米雇用統計で非農業 部門雇用者数の増加幅がエコノミスト予想を下回った。  中国2位の石油会社ペトロチャイナ(中国石油、601857 CH)は過去最安値に下落。燃 料価格が引き下げられる可能性があると上海証券報が伝えたほか、JPモルガン・チェー スが中国の国内総生産(GDP)見通しを引き下げたのが響いた。同行による下方修正は この1カ月で2回目。中国石油化工(SINOPEC、600028 CH)も下げた。石炭生産 で同国最大手の中国神華能源(601088 CH)は2.6%下落した。  上海証券取引所の人民元建てA株と外貨建てB株の双方に連動している上海総合指数は、 前週末比64.89ポイント(2.7%)安の2308.55と、昨年11月30日以来の大幅安となった。 上海、深?両証取のA株に連動しているCSI300指数は同2.8%安の2559.03と、3月28日 以来の大幅な下げとなった。 ■6月4日の海外株式・債券・為替・商品市場 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M53Y670UQVI901.html ◎NY外為:ユーロ続伸、欧州で銀行に関する話し合い合意を楽観  4日のニューヨーク外国為替市場ではユーロが対ドルで続伸。欧州当局者が域内銀行の より緊密な協力体制に関する協議で合意したことを受けて、これまでのユーロの下落が行 き過ぎた可能性があるとの見方が広がった。  ニューヨーク時間午後2時36分現在、ユーロは対ドルで0.5%上昇して1ユーロ=1.249 6ドル。6月1日には一時1.2288ドルと、2010年7月以来の低水準まで下落した。ユーロ は対円では1%上昇して1ユーロ=97円93銭。今月1日には2000年11月以来の安値となる 95円60銭をつけた。ドルは対円で0.4%上昇の78円35銭。 ◎米国株:ほぼ変わらず、値ごろ感から買い-下落分を埋める  米株式相場はほぼ変わらず。製造業受注が減少したものの、値ごろ感から買いが入り、 下落分を埋めた。S&P500種株価指数の2カ月におよぶ低迷で、採用銘柄の株価収益率 (PER)は6カ月ぶりの水準に低下した。  ニューヨーク時間午後4時過ぎの暫定値では、S&P500種株価指数は前営業日比0.14 ポイント高の1278.18。ダウ工業株30種平均は17.11ドル(0.1%)安の12101.46ドル。 ◎欧州株:4日続落、米製造業受注や中国サービス業の指標を嫌気  4日の欧州株式市場では、ストックス欧州600指数が4営業日続落。4月の米製造業受 注額が予想外に減少したことや、中国のサービス業活動の伸び鈍化が嫌気された。  ストックス欧州600では、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)やダイムラーなど自動 車株の下げが目立った。ノルウェーの石油サービス会社アケル・ソリューションズは4カ 月ぶり安値。デンマークの風力タービンメーカー、ベスタス・ウインド・システムズは9 年ぶり安値に下落。ブラックロックが持ち分を4.02%に減らしたことが影響した。  ストックス欧州600指数は前週末比0.5%安の233.87で終了。この日は英国やアイルラン ド、ギリシャの市場が休場だったことから、売買高は過去30日間の平均を55%下回った。 ストックス欧州600は年初来高値から14%下落している。  この日の西欧市場では、15カ国中9カ国で主要株価指数が下落した。 ◎欧州債:スペイン債が続伸、銀行保護の訴えに支持-独国債下落  4日の欧州債市場ではスペイン債が3営業日続伸。域内銀行保護取り組みを強化するべ きだとするラホイ首相の呼び掛けに対し、欧州当者からの支持が集まっていることが背景。  ドイツ国債は下落。利回りは過去最低水準から上昇した。スペインの失業者数が2カ月 連続で減少するなか、安全とされる独国債の需要が減退した。欧州連合(EU)やフラン スの財務当局者は経営難に陥った銀行に対するユーロ圏の直接的な支援が認められるべき だと主張。ラホイ首相は銀行資本増強への一元化されたシステムを求めた。  ドイツ政府のザイベルト報道官がユーロ共同債は現時点では全く不適当な措置だと発言 した後も、スペインとイタリアの10年債は堅調に推移した。  ロンドン時間午後4時24分現在、スペイン10年債利回りは前営業日比15ベーシスポイン ト(bp、1bp=0.01%)低下の6.38%。同国債(表面利率5.85%、2022年1月償還) 価格は1上げて96.2。  スペイン10年債利回りが3日連続で下げるのは3月9日以来で初めて。イタリア10年債 利回りは21bp低下の5.66%と、同じく3日連続の低下。 ────────────────────────────────────────            著者:渡邉哲也(作家・経済評論家)         ホームページ:http://www.watanabetetsuya.info/          Twitter:http://twitter.com/daitojimari    メールアドレス:info@watanabetetsuya.info ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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