2010/07/17 22:30 配信の記事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 藤井誠二公式メルマガ『事件の放物線』 2010年07月17日号 Vol.0001 死刑という罰の「手触り」 第一回 大阪姉妹殺人放火事件の遺族 ───────────────────────────────────── ■乱反射する憤りと絶望感■ 静かな住宅街のだらだら坂を歩いて登っていく。 だんだんと息が切れる。 まわりは田園も目につく。名産品の葱などを生産して、横を通ると葱の匂いが鼻 孔をかすかに刺激する。ゆるやかに蛇行する坂をあがっていくにつれ、のどかな 風景がぼくの後方にひろがっていく。生駒山の裾野にあるこの町には地方から移 り住み、この土地で家庭をつくり、子を育てあげた人々が多く暮らしている。 上原和男さんと百合子さんもそんな移住者だ。ぼくは徳之島特産の黒糖焼酎の一 升瓶をぶらさげていった。夫婦の故郷の酒だ。二〇〇六年末、ぼくは夫婦の暮ら す一軒家をはじめてたずねている。 炬燵で煙草をふかしていた和男さんは、やおら怒気をふくんだ語調で話しだした。 六〇歳手前の和男さんは幼いころに徳之島から大阪の親戚に預けられ、中学の途 中で一度は徳之島に父親に連れて帰られたことはあったが、鹿児島の高校を出て から再び大阪で働き始めた。だから関西弁なのだが、聞き慣れた関西弁のイント ネーションとはすこしちがう。故郷の訛りがまじるのだろう。 「山地は必ず死刑になる。そうでなけりゃ、世の中うまいこといかん。それは、 娘をふたりとも殺された親としては当たり前や。そやから、裁判所で記者からイ ンタビューされたときも(山地が)死刑にならなければ裁判所の前で腹かっ切るっ て言うた。それは自分で決めていたからね、それは裁判官が決めようとなんであ ろうと、もし死刑判決が出なかったら、それは法律にのっとって(判決を)出す だけであって、親としては関係がない。 そうでなければね、世の中うまいこといきませんよ…。 日本の文化なんて、臭いのを覆ったらええみたいな言い方するでしょう。この頃 (最近に)になって元からキッチリせないかんみたいな言い方になってるけれど、 やっぱり悪いことは悪いって、僕はしっかりやるべきやと思うけれどね。それを あやふやにするから、世の中がだんだんと甘い方向にばっかり行く…事件とかそ ういうのも起こりえる。なんか今は自分が被害者の立場やからそう言うているけ れどね…。」 和男さんが指摘しているのは、当時、連日のようにあかるみになっていた産地偽 装や表示偽装の企業倫理の崩壊を見せつけられるような出来事をさしている。 … … …
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2010年7月に配信されたバックナンバー一覧
- 2010/07/26 Vol.0002 死刑という罰の「手触り」 第二回 大阪姉妹殺人放火事件の遺族の思いは
- 2010/07/17 Vol.0001 死刑という罰の「手触り」 第一回 大阪姉妹殺人放火事件の遺族
- 2010/07/12 Vol.0000 お知らせ号 メルマガ創刊号の配信について
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発行者プロフィール
ノンフィクションライター
藤井誠二
1965年愛知県生まれ。ノンフィクションライター。
当事者に併走しつつ、綿密な調査・取材をおこない、社会や制度の矛盾を突くノンフィクション作品を数多く発表。TBSラジオ「BATTLE TALK RADIO アクセス」のトークパーソナリティーや、大阪朝日放送「ムーブ!」で「事件後を行く」などのコーナーを持つなど幅広い媒体で活動をつづけている。大学では「ノンフィクション論」や「インタビュー学」などの実験的授業をおこなう。
著書に、『17歳の殺人者』、『少年に奪われた人生』『暴力の学校 倒錯の街』『この世からきれいに消えたい』(以上、朝日文庫)、『人を殺してみたかった』(双葉文庫)、『少年犯罪被害者遺族』(中公新書ラクレ)、『殺された側の論理』『少年をいかに罰するか』(講談社)、『コリアンサッカーブルース』(アートン)、『「悪いこと」したらどうなるの?』(理論社)など多数。
現在、『キャスト』(ABC 朝日放送)にコメンテーターとして出演中(毎週木曜日)。
