□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン 2010年8月10日発行 第50号 ■ =============================================================== 舟橋洋一朝日新聞主筆の駐米大使就任はあるのか ================================================================ 8月8日の「さらば日米同盟」出版記念講演会で、ゲスト講師の森田実氏が 次の駐米大使に舟橋洋一氏が任命されるという話がもっぱらだという仰天情報を 披露された。 それを聞いた私は、それが本当だとしたら外務官僚にとっては衝撃に違いない、 まさか、と驚くとともに、ひょっとしたらありうる話かもしれないと思った。 今日のブログではその事を書いてみる。 各省庁の事務次官人事が内定した8月はじめの各紙は、結局民主党政権の 官僚人事も、政治主導と言いながら官僚組織の言いなりに終わった、順当な人事 だった、と報道していた。 その通りだ。外務省の場合も佐々江賢一郎外務審議官が8月中にも事務次官に 昇格することが内定したらしい。かねてから言われていた人事だ。 しかし、この事は藪中三十二現事務次官が退任することを意味する。 普通は彼のその後の人事も同時に報道される。そしてそちらの方が関心が強い。 ところが藪中事務次官の人事についてはまったく報道がない。 折から現駐米大使の藤崎一郎氏も交代する時期である。 外務省の強固な慣例に従えば藪中氏が駐米大使になるはずである。 もちろん外務事務次官が駐米大使にならなかった例も過去にはあった。 しかしそれは次官の任期と駐米大使の任期がうまく合致しない時とか、 あるいは、田中真紀子事件などのような「不測の事態」によってローテーション が狂うといった例外に限られた。 今回のように、駐米大使と外務事務次官の交代のタイミングが一致する平時に おいて、もし駐米大使が外部から政治任命されるとすればそれは間違いなく政治 主導の人事といえる。 しかし外務官僚は組織をあげて反対するだろう。なにしろ駐米大使は出世欲に 固まった外務官僚の生きがいのようなポストである。 事務次官になったのに駐米大使になれずに終わるなどと言う事は死んでも認め られないのである。 たしかに丹羽宇一郎伊藤忠商事会長の駐中国大使の任命も驚きの政治任命であった。 そしてその人事に外務官僚は衝撃を受け、抵抗もしただろう。 しかしあの時は、すでにメディアも一部報道していたように、宮本駐中国大使 の後任者に適当な外務官僚がいなかった事も事実だ。 しかも中国大使と米国大使では外務官僚のこだわりはまったく違う。 外務官僚にとって駐米大使のポストは他の省庁における事務次官職より上位に ある垂涎のポストだ。出世競争の最終目標である。 そのポストを外部の人間に取られるのでは何のために外務官僚を勤め上げてきた のかという事になる。 そのような強い外務官僚の抵抗を覚悟で政治任命を行なうほど岡田外相が強い 指導力を外務省に行使しているとはとても思えない。 ましてや外務省に対する影響力と関心がほとんどなく、おまけに9月の代表選 での生き残りで頭が一杯の菅直人首相が、駐米大使の政治任命に自らの政治力を 行使するとはとても思えない。 そんな中で、もし舟橋洋一氏の駐米大使任命があるとすれば誰の政治決断である のか。 そう考えた時に、ハタと気づかされる。それは米国の意向に違いない、と。 それは十分にありうる。 最近の舟橋氏の言説は米国の望むもの、そのものだ。 舟橋氏も意欲満々で、四股を踏みながらその任命を待っているごとくだ。 もちろん外務官僚は菅首相や岡田外相には抵抗しても、米国には絶対服従だ。 そう考えれば、舟橋洋一氏の駐米大使就任は、「有り得ない」という思いから、 一気に「十分有り得る」という方向に急転する。 しかし、もしそれが現実のものになるとすれば、それは取りも直さず米国の 日本支配が一気に進むと言うことだ。 米国に抵抗できない菅民主党政権下で、これ以上ない対米従属が一気に進む、 それは真夏の夜の冗談のような悪夢である。 果たしてそうなるのか。もうすぐそれが明らかになる。 了
天木直人のメールマガジン ― 反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説
天木直人(元外交官・作家)